太田先生原稿案

「タイトル未定」 太田恵里(理事)

 

 

一緒に活動をしている仲間から「目が不自由なゴールデンで、なかなか譲渡先が決まらない子がいる」という話しを耳にして、ゴールデンが好きな私とはしては、ずっと気になってはいたものの、先日ソックスを亡くしたことから、もう大型犬を飼うのは、自身の年齢のこともあり引退かなと思っていたこともあって、自分が飼うということは当初考えておらず。

 

念のため、見せてもらった写真が、私の飼っていたサンシャインにそっくり…。うーん、どうにも気になる。

 

そんななか、譲渡先を探すにしても大きさや性格がどんな感じかを知るためにも「一度見に来てみませんか?」というお誘いで、保護されている先に行ってみたのが、サンディとの初対面となりました。

 

訪れてみると、サンディはケージに引きこもって、一向に外には出てこない。聞けば、右目はまったく見えず、かろうじて左目がすりガラス状になっている感じにかすかにモノが見える程度、とのこと。

おそらく目の障がいのこともあって、楽しく思いっきり外で遊ぶなんていう経験をさせてもらっていないようで、外に出るとパニックを起こす状態。見えない状態でどこか安全な場所を求めるかのように、一直線にどこかに走り出す突進力といったら、油断していたら引きずられて、転んでしまいそうになるほどです。

 

保護先の方からは「連れて行ってみませんか?」と言われ、一緒に行った家族とも相談の上、連れて帰って様子を見ることに。もちろん帰りの車の中では固まっておびえている様子で、これから我が家で過ごすことも大丈夫かと不安になっていました。

 

いざ、家に到着してみると、やはり安心できる唯一の場所はケージの中ということで、引きこもり状態。トイレのために庭に出すことすら一苦労。突進力で転ばされないように、グッと足を踏ん張り、しっかりとリードをもって表に出してみると、おびえた様子でガタガタと震え、風の音にすら怖がり、尻尾は下がったまま。

とにかく私を中心にして、周囲をグルグルと何度も何度も周り、排泄が終われば私を引きずって、家の中のクレートに一目散!という状態が3ヶ月ほど続きました。

 

経緯を知っている佐良会長からも「(慣れるのに)3ヶ月はかかる」と言われていましたが、本当に3か月はそんな状態が続きました。

 

信じられないことに、目が良く見えず、屋外での生活経験も、社会化もされていないこの状態で繁殖に使われていたとのこと。確かにお腹のあたりもふくよかで、出産後?と思われる節も見受けられました。目の障がいに加え、社会経験不足のこの子にとって、オス犬との繁殖は、さぞかし怖い体験であったと思われ、やはり今でもまだ他の犬は苦手です。

 

あせらず、じっくり付き合うことこそが、自分に出来ることと腹を決め、とにかくサンディのペースに合わせて、少しずついろんなことにチャレンジをすることに。

 

最初のしつけ(トレーニング)はフード以外のものを食べてみることから。フード以外食べたことがないので、他の美味しいものも口にせず、本当に根気が求められます。

また今後の生活を考えると車移動になれてもらう必要があるので、少しずつ車に乗ることにもチャレンジしました。

 

そんなサンディでしたが、だんだんと人は好きになってくれたようで、自分から人に寄っていけるようにもなり、今では、排泄時に尻尾が少し上がって来たり、私がいる方向の足音を聞きつけてそばを歩いてくれたり、ケージの外にいることにも慣れ始めています。

車に乗ることの楽しさも感じてきてくれているのか、自分からすすんで車に乗り込んだり、車内のケージからぴょんと屋外に自分で飛び降りてくることまで出来るようになりました。

 

サンディは目が不自由な分、周囲の音に対する反応は鋭敏で、足音で誰がどの方向にいるかはもちろん、タイル状の床をコツコツと立てる音を聞いて、「あ!これは一緒に遊んでもらえるんだ!」というサインとして認識し、喜ぶ様子を見せてくれるようにもなりました。

 

社会化の面では、つい先日ですが、私の活動の際に一緒に会場まで連れて行き、周囲に人がいる環境の中ででも、クレートの中で怖がることなく落ち着いていられることが出来て、その成長に目を細めております。

 

今、改めて私自身、サンディを通してたくさんのことを学ばせてもらっているし、しつけやトレーニングについて、もう一度勉強をし直しているように感じています。

 

床をコツコツと鳴らす音が「遊び開始」の合図と理解したことを考えて、逆にコツコツと鳴らしたのに遊ばないということで、サンディを混乱させないようにしないと!と思いますし、目の不自由なサンディに、どのようにしたらうまく伝わるか?逆に混乱させないようにするために、自分がどこに気を付けないといけないか?などを、一つ一つ考えるようになりました。

 

とにかくこちらがやってほしいことを押し付けて、やらせるのではなく、サンディのペースを理解して、じっくり待ってあげることがとても大切だと痛感しています。

 

今の私のささやかな願いとしては、他の犬に対してもおびえるのではなく「安全」を感じられるようになってほしいなと思っています。

(毎日毎日、けなげな同居犬バディが、根気強くサンディを遊びに誘ってくれていますが、一緒に遊べるようになるのはもう少し先のようです。バディがあきらめてしまわないうちに、サンディが誘いに乗ってくれることを、バディと一緒に願う日々です。)

 

会員の皆様の中にも、高齢になって耳が遠くなったり、目が不自由になったり、体にどこかしらご事情のあるという犬を飼っていらっしゃる方もいらっしゃると思います。

 

私もそうした皆様と同じように、日々の生活の中で、犬が発してくれる小さなサインや、きっかけを見逃さず、縁があって私の元に来てくれた犬たちと、より良い関係を作っていきたいと思っております。